トキソプラズマ抗体の概要
トキソプラズマ症は、原虫の一種であるトキソプラズマ(Toxoplasma gondi)が原因で起こる感染症です。
感染経路は加熱不十分の食肉や猫の糞便(庭いじりなど)などによるものです。
症状は、リンパ節の腫れや発熱などがありますが、ほとんどの方は何の症状も現われずに治癒します。
そのため、特に怖い感染症ではありませんが、妊婦の方は要注意です。
妊婦とトキソプラズマ
健常者がトキソプラズマに感染しても、何の症状も現われないか、軽い症状で治まりますが、妊婦が妊娠中に初めて感染すると、胎児に障害(小頭症や水頭症、網脈絡膜炎など)が現われる場合があります。
一般的に妊娠初期に感染すると、胎児に感染する可能性は低いものの、感染した場合重症化しやすく、妊娠期間が進むにつれて胎児に感染しやすくなりますが、感染しても症状がでない、または症状が軽くすむ傾向があります。
妊婦のトキソプラズマ抗体検査の流れとみかた
パターン1
ステップ1
トキソプラズマ抗体検査(スクリーニング検査)
(―)・・・未感染
(+)・・・現在又は過去に感染既往あり → ステップ2へ
ステップ2
トキソプラズマIgM
(―)・・・妊娠前の感染
(+)・・・妊娠後の感染の疑いあり → ステップ3へ
ステップ3
IgGアビティティ検査
高値・・・妊娠前の感染
低値・・・妊娠後の感染
パターン2
ステップ1
トキソプラズマ抗体検査(スクリーニング検査)
(―)・・・未感染
(+)・・・現在又は過去に感染既往あり → ステップ2へ
ステップ2
トキソプラズマ抗体検査(初回検査から2~3週間後)とIgM抗体検査を実施
①最近の感染
トキソプラズマ抗体検査(スクリーニング検査)・・・初回との倍率が4倍以上の上昇
IgM抗体・・・・陽性
②最近の感染~感染の既往
トキソプラズマ抗体検査(スクリーニング検査)・・・初回と変化なし
IgM抗体・・・・陽性
③感染の既往(古い感染)
トキソプラズマ抗体検査(スクリーニング検査)・・・初回と変化なし
IgM抗体・・・・陰性
※検査の進め方や検査結果の解釈は、医療機関ごとに異なる場合があります。
トキソプラズマ抗体検査における各項目の解説
1)トキソプラズマ抗体(PHA法など)
この検査は主にスクリーニング検査として用いられます。
この検査の場合、後述するIgGとIgM抗体両方を検出するため、陽性の場合は、どちらの抗体が陽性かは判断できません。
また、ペア血清を用いることにより、現在の感染か既往感染かを判断する検査として用いられます。
2)トキソプラズマIgM抗体(EIA法・ELISA法など)
IgM抗体は、トキソプラズマ感染初期から産生され、3~6ヶ月で消失する抗体です。
そのため、このIgMが陽性の場合は感染初期が疑われるため、現在の感染か既往感染かを判断する検査として用いられます。
ただし、稀に長期にわたってこのIgM抗体が陽性となる場合があるので注意が必要です。
3)トキソプラズマIgG抗体 (EIA法・ELISA法など)
IgG抗体は、IgM抗体より遅れて産生され、治癒後も産生されることから、トキソプラズマ抗体を持っているかどうかを調べる目的で行なわれます。
また、ペア血清を用いることにより、現在の感染か既往感染かを判断する検査として用いられます。
4)トキソプラズマIgGアビティティ
この検査は、抗体の結合能力を調べる検査です。
ヒトの体は、個々の病原体に初めて感染するとその病原体に対する抗体が産生されますが、最初の抗体は、病原体に結合する能力が弱く、時間が経つにつれて結合能力が強いIgGが作られるようになります。
そのため、トキソプラズマIgGアビティティ検査で低値の場合は、初期感染である可能性が高く、高値の場合は既往感染である可能性が高いというわけです。
※ペア血清とは
2つの血清を用いる検査手法で、初回に検査したものと初回検査から2~3週間後にもう一度検査して、初回と2回目の数値の差から現在の感染か、過去の感染かの判断材料に用いられる方法です。
検査の目的
1)トキソプラズマ感染を疑う時
2)妊婦健診項目の1つとして
参考基準値
トキソプラズマ抗体 (PHA法など:スクリーニング検査)
160倍未満
トキソプラズマ抗体IgG(EIA法など)
(―)
トキソプラズマ抗体IgM(EIA法など)
(―)
※基準値は施設ごとで異なる場合があります。
トキソプラズマ抗体が陽性を示す病態
トキソプラズマ症